やっぱり神話に登場する木の国
出雲と深いかかわりがあった時代だと、神話にたびたび登場していた木の国ですが、 その次の神武天皇の神話にも木の国は登場しているんです! ここまで神話に登場し続ける地域と言うのも珍しいですよ!
さて、その神武天皇に関する木の国の神話と言うのが、、、
この国を治めるために九州から関西にやってきた神武天皇とその兄は、 大和(奈良)に入る直前に、大阪で地元勢力の抵抗に遭い、迂回を余儀なくされます。 その迂回先が、和歌山県南部の熊野でした。 しかし熊野へ向かう道中、神武天皇の兄は戦いで負った傷が原因で亡くなってしまいます。 神武天皇の兄は、現在の和歌山市周辺地域である名草に葬られました。

ただ、この時代の名草には名草戸畔と呼ばれる女王が支配していました。 神武天皇からすれば服従させておきたい勢力ですが、名草戸畔は神武天皇を拒んで抵抗しました。 ただ最終的には、名草戸畔は神武天皇との戦いに敗れてしまいます。

抵抗勢力が無くなった神武天皇一行は、この先の遠征の安全を祈願しようと考え、 一人の部下に持ってきていた神宝を名草に祀らせるように命じます。 その部下は命令通り、神宝を祀る社を名草に建てました。 そしてその後、神武天皇は熊野から上陸し、各地の抵抗勢力を従えていき、無事に大和(奈良)で日本を建国することになりました。 神武天皇は名草での部下の功績を称え、その部下に木の国を統治するように重ねて命じます。 その部下は木の国を統治する役職「木国造」として、その神社を拠点に木の国を支配し始めます。

この内容は『日本書紀』や和歌山県に残る伝承などを組み合わせて書いたものですが、本筋はほぼ変えていません。
神話に登場する神社
さて、まずゆかりの神社として紹介するのが、神武天皇の兄が祀られている竈山神社です!

神社の本殿裏に古墳があるんですが、それが神武天皇の兄が眠る古墳だと言われています。
そして次に紹介するのが、この地域を統治していた名草戸畔に関する神社です。 彼女を祀っている神社である中言神社はこの地域にたくさん残っています。

和歌山市内にある名草山の裏に鎮座する中言神社
この中言神社やその他の彼女を祀る神社の多くは、前ページ「出雲と繋がる古代きのくに」で紹介した特徴的な建物がある神社です。 おそらくはスサノオの息子・五十猛の子孫もしくは親族だと考えられます。 まあ、推測でしかないですが、、。
そして最後に、神武天皇の部下が創建した神社ですが、その神社は日前神宮・国懸神宮と言い、通称日前宮と呼ばれています。 この神社で祀っている神宝(ご神体)というのは、三種の神器である鏡に先立たれて造られた二枚の鏡です。 めちゃくちゃラフな言い方をすれば、三種の神器の試作品といった感じでしょうか。 その二枚の鏡をそれぞれ別の神宮で祀っているのですが、同じ境内にあるので総称・日前宮と呼ばれています。 全国的にもかなり変わった形態の神社と言えるでしょう。
.jpg)
ただ、当時の日前宮は別の場所にあったようです。その跡地に建っているのが、和歌山市の南部に鎮座する濱宮です。 元々は、和歌山市の沖合にある友ヶ島にあった社伝が対岸の加太に移り、そして濱宮に移ったみたいです。ちょっとややこしいですよね。

神武天皇一行は海から木の国に入ったので、徐々に海から陸地に移っていった過程は何となくわかると思います。 ただ、なぜ濱宮からも移ることになったのかは、後の時代のページで紹介しますね。
ヤマト朝廷に最初期から従った紀の国
出雲と繋がりが深かったにもかかわらず、神武天皇が即位したときから直属の部下が支配する地域となったのが、木の国です。 そして、その部下から始まった一族が、「紀氏」と呼ばれる一族です。 この一族の方々は日前宮の宮司さんとして今でも続いている家系で、日本国内では天皇家の次に古い一族なのだとか。 すごいですよね! そして、この紀氏が支配する地域だから「木の国」は「紀の国」へと文字が変わったのではないかとも言われています。 こんな内容からもこの時期は、「きのくに」にとってはかなり大きな転換点となった時代と考えられますよね。
そう、かつての五十猛一族から紀一族に支配者が変わり、文字も変わったかもしれない。 ただ、「きのくに」という響きは変わらなかったように、 出雲と繋がっていた時代から栄えていた集落は、衰退することなく繁栄していたことが、 発掘調査からわかっています。 何なら、田屋遺跡や橘谷遺跡といった集落跡が見つかっているので、人口が増加したとも考えられます。
支配者が変わると少しは抵抗するものの従い、最終的には支配者が重要視していたかのように神話に登場し、 集落も変わることなく大いに栄えた地域が「きのくに」という訳です!なかなか強かな地域ですよね~。
ただ、次の時代の紀の国はヤマト朝廷に従っていたこともあり、倭国大乱に大きく巻き込まれていくことになります。